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「M&A仲介の罠 まやかしの事業承継」

「M&A仲介の罠 まやかしの事業承継」

「M&A仲介の罠 まやかしの事業承継」という朝日新聞の連載記事(藤田知也記者・全6回)を読みました。有料記事なので転載することはできませんが、興味のある方はご覧になってみてください。

連載「M&A仲介の罠」一覧 – A-stories(エーストーリーズ):朝日新聞デジタル (asahi.com)

内容としては、タイトルどおり、M&A仲介業者の問題点について警鐘を鳴らす記事であり(M&A仲介業者の問題点については、このブログでも過去に述べたことがあります。)、その点につき特段目新しいものはなかったのですが、記事が取り上げている具体的事件に強く興味を惹かれました。

すなわち、表向きは事業再生を目的とする特定の法人グループが、数多くのM&Aを用いて子会社化した企業から同法人グループへと資金移動をさせている(結果、子会社が破綻。)といった実に不可解な事例を取材した記事でした。同法人グループの代表は、現在行方不明とのことです。

しかし結局のところ、同記事では、この法人グループの(あるいは同グループ代表の)真の意図がどこにあったのかという点が明らかとなっていないことから、読了感としては、いささか消化不良のもやもや感が残る内容でした。

これは少し前に世間を騒がせたトケマッチのような、当初から計画された犯罪行為なのか(とすると、模倣犯が発生しうるのか、あるいは集団的犯罪で別に黒幕が存在するのか…同代表の行動からすると、そのような気もします。)、あるいは本当にただ自転車操業的にM&Aを繰り返して進退窮まったのか(これはあまり考えられないと思うのですが…)。全容が解明した暁には、ぜひとも続報を読んでみたいところです。

いずれにせよ、M&Aは仲介業者におんぶにだっこでは大変なことになるということの一事例であることには間違いありません。また、ある程度の売り上げがあるといっても現状で赤字に陥っている会社を購入したいと希望する者が現れた場合に、その意図を探る作業は当然に必要でしょう。M&Aを用いる事業再生は、そんなに簡単なものではありませんし、火の車の会社を引き取ってくれてかつ個人保証も承継してくれるなどという「うまい話」がそうそう転がっていると考えるのは危険です。

そして上述のとおり、M&A仲介業者の構造的問題についてはかねてから指摘がなされているところですが、M&A後のトラブルを回避するためには、売主及び買主が当事者意識をもって取引に応じる必要があるということは、このような記事で繰り返し周知していく必要があると考えます。

シャローム綜合法律事務所では、M&Aに関するトラブルのご相談もお受けしております。詳しくは、下記のバナーをクリックください。

(弁護士 中川内 峰幸)

山本祥大弁護士が入所しました

山本祥大弁護士が入所しました

この度、当事務所は新たに山本祥大弁護士を迎えました。

所員一丸となって、より質の高いリーガルサービスを提供していく所存でございますので、ご厚誼を賜りますようお願い申し上げます。

(弁護士 中川内 峰幸)

会議室を拡張しました

事務所拡張に伴い、新たな会議室を設けました。

もちろん完全個室ですので、プライバシーに配慮した環境で、ゆったりと法律相談をお受けすることができます。

また、ご相談者様のお気持ちが少しでも明るくなるようにと、採光のよい間取りの一室となっております。

皆様のご相談をお待ちしております。

   

  

     

     

M&Aトラブル相談センター

M&Aトラブル相談センター

このブログでも何度かご紹介しておりますが、過去に企業内でM&Aの案件に多く携わっていたこともあり、独立して法律事務所を構えた後も、M&Aに関するトラブルのご相談をしばしば頂戴しておりました。

近年そのようなご相談が増加傾向にありますので、この度、「M&Aトラブル相談センター」と銘打ち、専用のHPを立ち上げさせていただく運びとなりました。

随時情報を更新していく予定ですので、こちらのHPも何卒よろしくお願い申し上げます。

詳しくは、下のバナーをクリックください。

(2024.2.27 弁護士 中川内 峰幸)

 

勤務弁護士募集

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シャローム綜合法律事務所では、業務拡大につき、勤務弁護士を募集しております。

現在、77期司法修習生のご応募もお待ちしておりますが、既に実務でご活躍されている先生方(インハウスからの転身をお考えの方や、女性の方も歓迎です。)のご応募もお受けしております。

詳しくは、ひまわり求人求職ナビの掲載内容をご覧ください。

【募集は終了いたしました】

M&Aのトラブル類型

M&Aのトラブル類型

更にM&Aのお話を。

M&Aに関する紛争のご相談で最も多いのが表明保証違反だというのは、以前のブログで書きました。それでは、他にはどのようなご相談が多いでしょうか。以下、備忘録的にまとめておきます。ご自身のケースと似ているという方は、ぜひご相談ください。

① 表明保証違反

 表明保証の内容は多岐にわたりますが、通常は、以下のような内容が一般的です(なお、株式譲渡契約を念頭に置いています。)。これらにつき事実と異なる点があると後日判明した場合、責任追及の可否が問題となります。

・本契約に必要となる社内手続や監督官庁の許認可等の法令上必要な手続が完了していること

・株式数・株式の種類(新株予約権等がないこと)・株主名簿の記載が真実であること及び売主が対象株式の権利を有していること(質権等の負担もないこと)

・対象会社の貸借対照表及び損益計算書が日本における公正妥当な会計基準により作成され、各作成基準日時点の財政状態・経営状態を適正に示していること・簿外債務を負担していないこと

・租税・公租公課の未払いがなく、適正な申告を行っており、これを否認する課税処分がなされるおそれがないこと

・取引先に対する重大な債務不履行がないこと、現在継続中の訴訟等がないこと

・チェンジ・オブ・コントロール条項(COC条項)がないこと

・従業員・労働組合との間で紛争がないこと、給与・退職金等の未払債務がないこと

・新たに重大な資産の譲渡・処分・借入・保証・担保設定等をしないこと

・新たに設備投資や非経常的な契約締結等をしないこと

・増資、減資、株式分割、合併、会社分割、株式交換又は株式移転をしないこと

・対象事業の運営又は価値に関連を有する重要な文書及び情報で買主から開示請求を受けたものを全て開示しており、これらが重要な点で真実かつ正確であること

・反社条項

 

② 競業避止義務違反

 売主は、M&A実行後の数年間は、対象会社と競合関係に立つ業務を行わず、又は第三者に行わせないという条項が規定されることがよく見られます。この点、事業譲渡の場合は、会社法で規定されていますが、株式譲渡では明文の規定が存在しません。したがって、契約書の中で競業避止義務につき定めておくことが重要です。ただし、M&Aの当事者が市場において一定の規模を有している場合で、競業避止の地域・期間・商品等が広範囲に渡っている場合には、独占禁止法に抵触する可能性がありますので注意が必要です。またそのような場合でなくても、売主の職業選択の自由を侵さない程度にとどめることが必要です。また、この点は、従業員の引き抜き、顧客奪取などの問題とも絡んできますし、売主が第三者を介して競業する業務を行う場合の立証の問題も生じます。

 

③ 従業員問題

 経営者が変わることにより、従業員が離反することがあります。そのような場合を想定して、従業員への説明の方法・タイミング等につき注意深くスキームを進めていくことが通常ですが、旧経営者がカリスマであった場合には特にこのような問題が顕在化します。従業員の会社に対する忠誠心が低下し、生産性が下がり、業務が停滞し、一気に業績が悪化することにつながり得ます。小売業や飲食業の場合は、明日店舗を開けられないという状況に陥ると大変です。また、かかる労働者が、単に退職するのみならず、従来は問題視されていなかった未払残業代等の請求をしてくる場合も想定されます。この点は、上記表明保証責任ともからむ問題となります。

 

④ 取引先・顧客の離反

 クロージング後に、大きな取引先が対象会社との取引を停止してしまうという事態も想定されます。これは、上記COC条項がある場合は表明保証違反の問題として捉えることが比較的容易ですが、そうでない場合にはなかなか厄介な事実認定の問題となります。M&A後速やかに買主が取引先へのフォローをしなかったことから、取引先が将来の取引継続に不安を感じて取引を停止する場合もあり、そのようなケースでは、果たして売主に責任があるといえるか非常に困難な場合があるからです。

 

⑤ 顧問契約の解除

 業務の引継の必要性や、あるいは従業員や取引先との関係を軟着陸させる目的もあり、旧経営者が顧問等の名目で一定期間、引き続き会社に残るという場合がよく見られます。しかし、上に見てきたような問題が売主・買主間で勃発し、顧問契約を一方的に破棄されたり、顧問料を支払わなかったりというケースが散見されます。莫大な譲渡価額を得て左うちわの旧経営者であれば格別、半ば不本意な形での自社売却を余儀なくされた旧経営者の中には、引き続き得られるはずであった顧問料を生活の糧として期待している場合もあり、深刻な事態となります。

 

⑥ 仲介業者とのトラブル

 これも以前のブログで述べました。M&A仲介業者との間の紛争事例も増加しています。

 

⑦ 経営者保証の引継

 旧経営者が負担していた対象会社の保証債務(経営者保証)を、クロージング後に買主が引き継ぐという従前の約束に反し、買主がこの引継・承継の手続を行わず、依然として旧経営者が保証債務から離脱できないという問題です。金融機関の同意がなければ承継手続ができないことから、株式譲渡契約書には努力義務として規定されていることが多いですが、クロージング前に金融機関との事前相談を行うことによって紛争発生を未然に防げる場合が多いと考えられます。

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他にも様々なM&Aに関するトラブルのご相談をいただいております。一つでもご自身のケースに当てはまるとお考えの方は、どうぞお気軽に、神戸のシャローム綜合法律事務所までお問い合わせください。詳しくは、下記M&Aトラブル相談センターのバナーをクリックください。

(2023.9.25 弁護士 中川内 峰幸)

表明保証責任を追及することができない場合

表明保証責任を追及することができない場合

続けてM&Aの話題を。

M&Aの契約を締結する際、表明保証を行うことが通常です。具体的には、契約書(株式譲渡契約が多いと思います。)の中に、表明保証に関する条項を盛り込みます。売主・買主の双方が表明保証をしますが、この内、主となるのは売主側の表明保証です。M&Aは迅速性が要求されますので、DD(デューデリジェンス)を行うとはいえ、全てのリスクにつき調査しこれを明らかにすることは不可能です(中小企業のM&Aの場合、簡易な財務DDだけを行い、法務DDを省く場合すらあります。信じられないことですが。)。それゆえ、情報を有している側である売主が、ある一定の時期(契約日や譲渡日)における財務や法務などの一定の事項につき開示し、その内容が正確であることを保証するのです。このようにして、事前にリスクを可及的に回避し、後日の紛争予防に資するというわけです。

ところで、クロージング後に表明保証違反とみられる事実が発覚した場合でも、必ず責任追及ができるというわけではありません。東京地方裁判所平成18年1月17日判決では、表明保証の対象について悪意又は重過失の譲受人は、当該対象が事実と異なる場合であったとしても、補償の請求ができないと判断しています。

株式譲渡契約等において、買主が売主の表明保証の内容が正しくないことを知りながら、取引をクローズし、クロージング後に売主に表明保証違反に基づく補償を請求することは、サンドバッギング(sandbagging)と呼ばれていますが、上記判例は、この点につき、株式譲渡契約締結時において、売主が表明保証を行った事項に関して違反していることを買主が知らないことについて重大な過失があると認められる場合には、公平の見地に照らし、悪意の場合と同視し、売主は表明保証責任を免れると解する旨判断しており、買主がこれらにつき悪意である場合には、当然として表明保証責任を追及することはできないとの立場です。ちなみに、「悪意」とは、法律用語で、「知っている」という意味です。平たく言えば、契約書に表明保証云々と書かれていても、その内容が事実と異なるということにつき最初から知っていたんだから、後からごちゃごちゃ言えないよということです。

訴訟において、表明保証違反の事実についての立証責任は買主側にありますが、これに対して、売主側としては、買主が当該事実につき悪意であったという主張をすることが考えられます。とすると、売主も買主も、ただ締結する契約書の内容を審査するだけでなく、契約の交渉時の経緯等についても、逐一資料を作成して保存しておくということが、後々の紛争予防に関しては重要と考えられます。

表明保証違反を追及したいとお考えの方も、表明保証責任を追及されているという方も、お困りの際はシャローム綜合法律事務所へご相談ください。

詳しくは、下記M&Aトラブル相談センターのバナーをクリックください。

(2023.9.22 弁護士 中川内 峰幸)

M&A仲介業者の問題

M&A仲介業者の問題

前職でM&Aの案件に数多く携わっていたことから、ありがたいことに現在もM&Aに関するご相談をよくいただきます。

その多くは表明保証(レプワラ)違反に関するものなのですが・・・売り手や買い手の責任ではなく、仲介業者の責任ではないかと思わずにいられない事案も少なくありません。本日は、そのM&A仲介業者の問題についてです。

事業承継や創業者利益の確保、その他色々と理由はあるでしょうが、皆さんが自社を売却する場合(話を中小企業に限ります。)、具体的にどうするでしょうか? 最近ではネットでマッチングサービスを提供するようなサイトもあるようですし、あるいは商工会議所に相談される方もいらっしゃるかもしれません。しかし実際にM&Aを遂行する段階となると、専門的な知識や、そもそも適切な買い手を探す必要がありますので、多くの場合は、M&A専門の仲介業者を頼ることになるのではないでしょうか?

これまたネットで検索すると、数多くのM&A仲介業者が出てきます。中には上場企業もあり、従業員が高給取りであること等でニュースとなったりもしています。

さて、これらM&A仲介業者は、はっきり言って、乱立しています。なぜなら、M&A仲介業者となるために何か特段の免許や資格が要求されるわけではなく、極論すれば、M&A仲介業者であると名乗りさえすれば、誰でもM&A仲介業を行うことができるからです。そして、近年、中小企業経営者の高齢化が問題となり、M&Aの需要が高まったことから、中には、要求される水準の資質や能力のない者までが、自己の報酬(仲介料)目当てに杜撰な業務を行い、これにより売り手あるいは買い手(又は双方)が不測の損害を被るといった事態が、現に発生するようになっています。猫も杓子もM&A仲介を行うようになり、今では金融機関までもが、そのような部署を構えるに至っています。結局のところ、「儲かる」のでしょうね。そして、参入障壁が低いということです。

しかし、そもそもかかるM&A仲介業には構造的な問題があるのです。というのは、日本におけるM&A仲介業者は、売り手と買い手の双方における仲介を行い、その双方から報酬を得ています。そして、平たく言えば、買い手は安く買いたい、売り手は高く売りたいとの意向が当然あるわけですが、M&A仲介業者にとっては、売り手は売ってしまえばおしまいなので一回限りの顧客であるのに対し、買い手は成長戦略の一環として企業買収を行うわけですから、リピーターとなる可能性のある「上客」です。したがって、買い手にとって有利となるようにM&A仲介業者が動く(特に、バリュエーションの場面で)といった可能性が潜在的にあります。このような利益相反関係が内在されている取引-両手取引-と呼ばれますが、これは海外ではあまり見られないものと聞きます。

このような双方代理に起因する利益相反の問題もありますし、質の悪い仲介業者が自己の利益を優先して件数をこなそうとするあまり、杜撰な業務を行う場合もあります。私が過去に取り扱ったM&Aに起因する紛争(上に述べましたとおり、表明保証違反が多いですが)についても、仲介業者が問題のある業務(クロージングを逸るため、拙速なデューデリしか行っていなかったり、あるいは売り手買い手の双方に対して誤解の生じる説明を行う、あるいは説明不足)を行ったことが原因ではないかと思われる事案が複数件あります。そのような場合、当該仲介業者に事実の確認をすると、大概自己保身に走り、不誠実な回答しかしてこないものです。「残された者同士でやってください、後は知りません」というわけです。すなわち、M&Aの相手方を選ぶ以前の問題として、M&A仲介業者をじっくりと選定する必要があるし、M&A仲介業者を選んだ後も、おんぶに抱っこで全て任せきりにしていると足元をすくわれるということです。

このように、M&Aには、売り手・買い手のみならず、仲介業者という第三の登場人物もおり、その全てが誠実な業務を遂行しているとは限らないという実態があります。

以上の問題に限らず、M&Aに関するお悩みをお持ちの方は、ぜひシャローム綜合法律事務所へご相談ください。

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(2023.9.19 弁護士 中川内 峰幸)

【婚姻費用】相手方が遠隔地に居住している場合の管轄をこちら側に発生させる手法

【婚姻費用】相手方が遠隔地に居住している場合の管轄をこちら側に発生させる手法

女性の側が多いのでしょうが、別居してご実家に戻られるか、あるいはご自身で賃貸物件を借りられてある程度生活基盤を整えてから婚姻費用分担調停を申し立てるケースはよくあります。

しかし、相手方(夫)との間に物理的距離が発生し、いわゆる遠隔地となった場合、調停を申し立てる裁判所は、夫の住居地を管轄する家庭裁判所となりますので、わざわざ遠い裁判所に申立てをして、わざわざ遠い裁判所に行かなければならないのでしょうか。原則はそうです。交通費等がかかりますし、小さなお子さんがいらっしゃる場合などは大変です。

このような問題に対処するため、時に別の方法をとる場合があります。具体的には、保全の申立てです。まず、婚費の調停ではなく、いきなり審判を申し立てて(自分の住居地を管轄する家裁にです。)、それと同時に、「審判前の保全処分」の申立てをします。すると家裁は、保全事件に関しては速やかに処理しなければなりませんので、同保全処分の審理を待ったなしで行うことになります。そして、保全処分の発令と同時に、本案事件についても処理されることが多いかと思います。これにより、遠隔地における場合であっても、自らの近くの裁判所を利用することが可能になります。裏技的な感じですが、私も過去に何度かやったことがあります。

とはいえ、相手方は電話会議で参加できますし、コロナ後はWEB会議も増えてきましたので、その意味では、婚費の調停で何としても管轄をこちら側に発生させなければならないという必要性は減少しているのかもしれません。しかし、相手方からカウンターで離婚調停を申し立てられることもよくあり、その場合は、管轄がどちらに発生したかという点は重要です。離婚調停が成立する期日には、実際に本人が出頭しなければならないからです。そして、婚費調停が係属している家裁で離婚調停も審理されることになるのが通常です。ですので、こちら側は婚費だけを請求したくて(自ら進んで離婚を求めるような状況になく)、ただ相手方は離婚を求めているような場合には、管轄を有利に進めるべく、検討する価値のある手法かと考えます。

(2022.11.22 弁護士 中川内 峰幸)

住宅特則付個人再生でしばしば問題となる点

住宅特則付個人再生でしばしば問題となる点

9月も半ばとなりましたが、まだまだ酷暑が続いています。幸いなことに、私もスタッフもコロナにはまだかかっておりませんが、依頼者の方々には罹患された方も多く、一刻も早く終息することを願うばかりです。

さて、最近当事務所では、破産よりも個人再生の受任の方が多くなっており、これはなかなか珍しい現象です。それも、住宅特則付のご相談が多いです。これは、従来ならば法的手続をとらずに済んだような、マイホームをお持ちの比較的裕福な方々が、昨今の経済情勢の悪化から、支払に困窮するケースが増えてきているのではないかと推測されます。

その際、住宅資金特別条項をつけることができるか問題となる場合がいくつかありますので、以下、備忘的に記しておきます。詳しくは、お問い合わせください。

① 諸費用ローン

住宅ローンとは別に、いわゆる諸費用ローンを組んでいる事案がしばしばありますが、この諸費用ローンは、金融実務上住宅ローンとは別に扱われていることや、貸出使途が一律ではないことなどに鑑みると、原則として、住宅資金貸付債権には該当しません。ですので、住宅特則をつけることはできません。

しかし、不動産購入時に諸費用ローンを組むことは珍しくないことから、諸費用ローンにつき一律住宅資金貸付債権に該当しないものと扱うことも妥当ではありません。そこで、実務では、諸費用ローンにつき、その使途が住宅の建設や購入に密接にかかわる資金であり、諸費用ローンの総額が住宅ローンの総額に比して僅少であるような場合(大体10分の1ぐらいでしょうか。)には、住宅資金貸付債権として取り扱うことが許容される場合があります。使途の件に関して、登記費用、税金、仲介手数料等ならば密接にかかわる出捐といえますが、引越費用となると、具体的な事情によるでしょう。詳しくはお問い合わせください。

② 買換え

住宅の買換え又は建替え時に、従前居住していた住宅の購入等にかかるローン残額があり、当該残ローンを併せて住宅ローンを借りる場合があります。こういったケースでは、前住宅の残ローンに関しては、再生債務者が現在居住していない前住宅についてのローンであることから、これらを併せて住宅資金貸付債権に該当すると解することは困難です。民事再生法196条1項は、住宅資金貸付債権の要件たる「住宅」を、「再生債務者が所有し、自己の居住の用に供する建物」と規定しているからです。

しかし、①の諸費用ローンの場合と同様、住宅の買換えや建替えは珍しいものではなく、これを一律に住宅資金貸付債権に該当しないものと扱うのも妥当ではありません。特に、建替えの場合は、民事再生法196条3号が「住宅の改良」につき住宅資金貸付債権に当たるとしていることとの均衡からもなおさらです。

そこで、前住宅の残ローンに関しても、新築建物を取得するに至った経緯や残ローンの総額が住宅資金そのものの借入総額に占める割合等の個別的事情により、前住宅の残ローンを含めた全体の貸付債権につき、住宅資金貸付債権として取り扱うことが可能な場合もあると考えるべきです。

実際に、当事務所でも、上記観点から詳細な上申書を作成し、各種資料を提出した上で裁判所を説得し、買換えの場合にも住宅特則を付けることに成功した実績があります。ご依頼者は、個人再生ができないとなると破産しかなく、家を売却することによりご家族にも迷惑がかかることをいたく心配しておられましたが、無事に認可決定が出てとても喜んでいただきました。

③ ペアローン

同居する夫婦や親子が、共有する住宅の持分に従い、それぞれ住宅ローンを組み、共有不動産の全部にそれぞれを債務者とする抵当権を設定する場合です。当事務所で取り扱った案件では、親子の場合が多いですね。この場合、たとえば子が単独で個人再生の申立てを行い、住宅資金特別条項を利用しようとしたとしても、民事再生法198条1項但書の「住宅の上に第53条第1項に規定する担保権が存するとき」の要件を形式的に当てはめると、第2順位の抵当権(父の債務を担保するために子の共有持分に対して設定されている抵当権)が存することから、住宅資金特別条項を利用することはできないこととなります。なお、この点は、立法時には予想されていなかった問題であるとの指摘があるようです。

この点、上記198条1項但書の趣旨は、当該担保権が実行されることにより、住宅資金特別条項が無意味なものになってしまうことを回避する点にあります。とすれば、当該担保権の実行が法律上あるいは事実上なされないような場合には、これを認めても問題がないということになります。実務上は、同一家計を営んでいるもの(夫婦)のいずれもが個人再生手続の申立てをし、かつ、いずれもが住宅資金特別条項を定める旨の申述をすることを要件として、住宅資金特別条項の利用を認めるという運用がなされています。

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いずれにせよ、ご相談に来られる際には、不動産の登記簿と、売買契約書、ローン契約書をお持ちください(お手元にあれば、ローン償還予定表と固定資産税評価証明書も。)。ご相談者のケースが、住宅特則を付けられる事案であるか、丁寧に検討させていただきます。

また、自己破産や任意整理のご相談もお待ちしております。詳しくは、下のバナーをクリックください。

(2022.9.15 弁護士 中川内 峰幸)