相続・遺産分割
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相続関係でお悩みの皆様へ
神戸のシャローム綜合法律事務所では、相続・遺産分割の問題に関してましても、連日多数のご相談を頂戴しております。
相続と一口に言っても、その内容は多岐に渡ります。例えば、遺産分割交渉や調停・審判、相続放棄、遺言の作成や遺言の効力をめぐる紛争、遺言があった場合に発生する遺留分減殺請求など、実に様々な問題があります。
また、親族間の争いは、時に熾烈なものとなります。我々の業界ではよく言われますが、「相続問題」が「争族問題」とならぬように、当事務所では、ご依頼者の声にじっくり耳を傾けた上で、どのような解決方法がご依頼者にとってベストであるかを検討させていただきます。まずは弁護士にご相談ください。ご相談は、初回30分無料です!
このようなお困り事はありませんか?
- 他の相続人との間で遺産分割協議ができない。
- 兄弟と仲が悪く、一切顔を合わせずに遺産分割がしたい。
- 他の相続人が被相続人の財産をすべて管理しており、調査ができない。
- 相続税の申告時期が迫っているが、他の相続人が財産を開示せずに焦っている。
- 準確定申告って?
- 他の相続人の代理人弁護士から通知が届いた!
- 遺産分割協議がまとまるまでは、預貯金を一切下ろせないの?
- 遺産に収益物件があるのだけれど、家賃収入はどうすればいい? ローンの返済は?
- 亡父の多額の借金が最近判明したので、相続放棄がしたい。
- 相続放棄の熟慮期間3か月が既に経過してしまっている。
- 兄弟が父の生前に使い込みをしていたようだ。
- 他の相続人が認知症になっており、遺産分割の仕方がわからない。
- 亡父が兄弟の一人に生前贈与をしている。
- 相続人の中に、行方不明者がいる。
- 遺言書を作成したいが、ワープロで作成してハンコを押せばいいの?
- 介護をしてくれている息子に多く遺産を取らせたい。
- 遺留分って?
- 遺言の存否を調べる方法は?
弁護士費用
法律相談 | 無料(ホームページを見たと言ってくだされば、初回30分無料です!) |
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遺産分割協議書作成 |
11万円~ 内容が複雑な場合には、追加の費用を頂戴することになります。また、公正証書にする場合には、追加で8万8000円が発生します。(その他、公証人手数料等の実費及び、弁護士が代理人となっての公証役場への同行をご希望の場合には、6万6000円の手数料が発生します。) |
交渉・調停 |
着手金:44万円~ 事案の難易により変動します。詳しくは、ご相談時にお問い合わせください。お見積もりをさせていただきます。また、複数人でご依頼いただく場合には、一人当たりの着手金を各11万円ずつディスカウントさせていただきます。 報酬金:22万円+取得する相続分(※)の10%+税 (但し、最低額55万円) ※ その他、出廷日当が発生します。 |
審判 |
調停から審判へ移行する際に、22万円 報酬金は、上記交渉・調停の場合と同様となります。 |
(※)取得する相続分 |
取得する相続分とは、遺産分割によりお客様が相続する財産の合計額をいいます。ご依頼前に争いがなかった部分を含みます。 |
お支払方法 |
着手金は、原則、委任契約の際にお支払いいただきますが、一括でお支払いいただけないご事情がある場合にはご相談ください。分割のお支払にも対応させていただきます。 ※大変申し訳ございませんが、令和6年現在、相続・遺産分割事件に関しては法テラスのご利用をご遠慮いただいております。民事法律扶助をご希望の方は、お近くの法テラス事務所までお問い合わせください。 |
遺言書作成
自筆証書遺言
いつでもご自身で作成できる遺言書の方式です。民法改正前はすべて自筆で作成しなければなりませんでした。 民法改正後は、財産目録に関してはワープロで作成することが出来るようになり、また、自筆証書遺言を法務局で保管する運用も開始されました。公正証書遺言
遺言者の口述(くじゅ)した内容を公証人が公正証書遺言として作成する方式です。 当事務所では最もお勧めしている方式です。 公証役場で二人以上の証人の立ち合いのもとに作成され、公証役場にて保管されます。 自筆証書遺言に比べ費用は掛かりますが、その分、書式の不備や、偽造されたりする恐れがないので、安心して遺言書作成をしていただくことができます。
秘密証書遺言
秘密証書遺言とは、その名のとおり生前中、遺言の内容を秘密にしておきたい場合に作成される遺言方式です。 内容に関しては手書きでもワープロでも構いません。 遺言者が遺言書を作成し、署名・押印します。 それを公証人と二人以上の証人の前に提示し、封筒の表に遺言者、公証人、証人が署名押印します。 つまり遺言書の存在のみ証明され、内容に関しては全て秘密にされているので、秘密証書と呼称されます。
遺言書の作成も、シャローム綜合法律事務所にお任せください!
弁護士コラム
遺産から葬儀費用を支出すると相続放棄できない?
プラスの財産よりもマイナスの財産の方が多い場合、相続放棄を選択することが一般的です。相続放棄は、自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内に行う必要があります。これを熟慮期間といいます。
さて、熟慮期間以外に気をつけなければならないのが、法定単純承認です。これは、相続人が、相続放棄前に相続財産の全部又は一部の処分をした場合には(ただし保存行為及び民法602条所定の短期賃貸借契約をなすことを除きます。)、単純承認をしたものとみなされ、相続放棄ができなくなってしまうというものです。その場合、家庭裁判所で申述が却下されてしまいます。
問題は、何が法定単純承認に該当するか、です。民法上、「処分」の意義は一様ではないため問題となります。
よくご質問をいただくのは、「遺産の中から葬儀費用や仏壇の購入費用を出しても大丈夫でしょうか・・・?」というものです。
裁判例をご紹介しましょう。大阪高裁平成14年7月3日決定、これは、相続放棄申述却下審判に対する抗告事件です。
被相続人が死亡し、妻らが葬儀を行いました。香典144万円を受領し、その他被相続人名義の300万円の郵便貯金があったのですが、妻らは、これらから葬儀費用、仏壇購入費、墓石購入費として計493万円余を支出し、不足分については、自ら負担しました。その後3年余り経過して、信用保証協会から被相続人宛てに6000万円近い求償権及び損害金が存在する旨の残高通知書が送られてきました。
原審は、妻らが貯金を解約して墓石購入費にあてたことから民法921条1号の「相続財産を処分したとき」にあたるとして申述を却下しました。
これに対して、抗告審において本決定は、「相続債務があることが分からないまま、遺族がこれを利用して仏壇や墓石を購入することは自然な行動であり、また、本件において購入した仏壇及び墓石が社会的にみて不相当に高額のものとも断定できない」として、「相続財産の処分」には当たらないと判示して、原審判を取り消し、自判の上、申述を受理したという事例です。
まず、香典ですが、一般には、喪主に贈られ、喪主が処分すべき財産として葬儀費用に充当されるもので、相続財産ではないことから、処分しても(受け取っても)大丈夫と理解されているようです。
そして、葬儀費用ですが、これも一般には、喪主が負担すべき債務であり、被相続人の財産からは支出しない方が無難ではあります。
上の大阪高裁決定は、遺族の心情や相続の実情に即した判断をしたといえますが、同決定を根拠に、いかなる場合においても「葬儀費用の支出は処分に該当しない」と結論付けるのは危険でしょう。上記決定も、相続人において相続債務の存在を知らなかったことや、仏壇・墓石の価額等に言及していることからも、あくまでも事例判断と解する余地があります。
民法921条1号の立法趣旨は、相続人が単純承認をしない限りしてはならない行為があれば、黙示の単純承認があったと推認できるし、第三者から見て単純承認があったと信ずるのが当然であること、処分を信頼した相続債権者、他の相続人、第三者の保護の必要性にあるといわれています。
かかる立法趣旨から、当該行為が、身分相応の当然営まねばならない行為であるか否か、また、財産的価値の多少といった事情等を考慮して、「処分」該当性を判断することになると思われます。
したがって、結論としましては、原則として、相続財産から葬儀費用を支出「しない」方が当然安全ではあるが、仮に支出してしまった場合でも、その支出に至った経緯、支出額の多寡、その他諸般の事情次第では、相続放棄が可能だということになるでしょう。
同じようなケースに遭遇してお困りの場合は、シャローム綜合法律事務所までお気軽にお問い合わせください。
(弁護士 中川内 峰幸)
寄与分が認められる場合及びその額
遺産分割において、寄与分の主張をする、あるいはされる、ということはよくあります。今回のコラムでは、どのような場合に寄与分が認められるのか、そして、認められるとしてもその額はどのように算定するのか、という点につきご説明します。
さて、一般に、寄与分は次の3類型に分類されるといわれます。
① 財産給付型・・・相続人が被相続人に対して財産を給付していた場合
② 事業従事型・・・相続人が被相続人の事業に従事しており、労務を提供することにより被相続人の財産の維持や増加に貢献した場合
③ 療養介護型・・・相続人が被相続人の介護に従事した場合
高齢化社会の進展に伴い、同居する親の介護をしていたなど、③の療養介護型の主張が多くなされるようになっており、今後もその傾向は更に強まることと想定されます。ですので、今回はこの③療養介護型に絞ってご説明することにします。
大体において、高齢の親の介護をしていた方は、「親の面倒をみるのがどれだけ大変だったか。他の兄弟姉妹にはわからないんだ。私には寄与分がある!」とおっしゃいます。介護には大変な労力を要しますし、自らの親の介護となると、更に精神的なご負担があるものと拝察します。「介護離職」という言葉も頻繁に聞かれるようになり、社会問題となっております。
ただし、かかる介護の寄与分も、「寄与分」である以上は、これが認められるためには、相続人と被相続人との身分関係に基づき通常期待される程度を越える特別の寄与である必要があります。
ご相談者からお話を伺うと、ご苦労は本当によくわかるのですが、法的な観点からすると、あくまでも親族間の扶養の範囲内のものであったり、夫婦間の協力扶助義務の範囲内のものであったりすることが多く見られます。
そのような場合、審判まで見据えるとなると、最終的に寄与分が認められることは困難ですから、とりあえず主張はしてみるとしても、どこまでその話を引っ張るのか、その線引きはあらかじめきちんと考えておく必要があります。認められる可能性が極めて低い事項に対して時間と労力を割いてしまうことになり、徒に解決を先延ばしにしてしまいかねません。また、このような親の介護の話に関しては、相手方も頑なになり、「そんなこというならこっちだって」云々の話を持ち出してきて議論が錯綜する危険性もあります。
さて、それでは、どのような場合に寄与分が認められるのでしょうか。
先にも少し触れましたが、まず、相続人と被相続人との身分関係に基づき通常期待される程度を越える特別の寄与・貢献が必要です。週に1回程度通院に付き添っただとか、毎日寝る前に電話で安否を確認しただとか、食事を持って行ってあげただとか、その程度では認められません。また、基本的に無償で行われたものであることが必要です。
そして、そもそも論として、被相続人に「療養看護」が必要であったことが前提となります。このことが認められるための一つの目安としては、被相続人が「要介護度2」以上の状態にあることが必要であるといわれています。かかる療養看護が必要であったことの証明のためには、診断書、カルテ、介護日誌、介護サービス利用関係書類、陳述書などを用いることになります。
では、寄与分が認められるとして、幾ら認められるのでしょうか。
実務においては、以下の数式によって算定されることが多いといえます。
療養看護型の寄与分 = 介護報酬相当額 × 療養看護の日数 × 裁量割合
以前は、相続分全体に対する割合的な算定も行われていたようですが、現在においては、介護保険における介護報酬基準が用いられることが多いです。つまり、「プロに頼んだら幾らかかるか」という発想です。ただし、この「プロに頼んだら」というところがなかなかネックでして、本来の介護報酬基準は、看護や介護の有資格者への報酬として定められているものですから、無資格者の相続人が介護をした場合には、これを減額すべきとの考えになります。その減額を反映させるのが、上記数式の「裁量割合」の部分です。正に「裁量」なわけですから、どれだけ修正されるのか予測可能性が低いこととなりますが、通常は、0.5から0.8程度の間で適宜修正され、0.7あたりを平均的な数値としているようです。
いかがでしょうか。以上を検討することによって、自らに寄与分が認められるのか否か、そして認められるとして幾ら認められるのかにつき、ある程度は感覚がつかめるかと思います。
なお、改正相続法により、相続人以外の被相続人の親族(特別寄与者)に対しても寄与分が認められるようになりました。その場合にも、上記寄与分における算定方法が参考になるものと考えます。
寄与分につきより詳しく知りたいという方は、シャローム綜合法律事務所までお気軽にお問い合わせください。
(弁護士 中川内 峰幸)
遺産の分割前に遺産に属する財産が処分された場合の遺産の範囲(改正相続法)
改正相続法解説の最終回です。今回は、遺産の分割前に遺産に属する財産が処分された場合の遺産の範囲についてです。
条文を見てみましょう。
(民法906条の2)
1 遺産の分割前に遺産に属する財産が処分された場合であっても、共同相続人は、その全員の同意により、当該処分された財産が遺産の分割時に遺産として存在するものとみなすことができる。
2 前項の規定にかかわらず、共同相続人の一人又は数人により同項の財産が処分されたときは、当該共同相続人については、同項の同意を得ることを要しない。
一部の共同相続人により遺産の使い込みがあった場合にどうなるか、ということです。
相続開始後(あるいは相続開始前から)、遺産分割前に遺産が使い込まれてしまうということはよくある話です。実務上問題となることが多いのは、預貯金の払戻しのケース等でしょう(一般に「使途不明金問題」と呼んだりします。)。
そのような場合、実務においては、「遺産分割は相続開始時に存在し、かつ、遺産分割時にも現に存在する財産を共同相続人で分配する手続である」という考えから、原則として、同時点で実際に存在する財産を基準として遺産分割を行うことになります。
つまり、当該処分(使い込み)によって当該共同相続人が得た利益は、遺産分割においては特段考慮しないということになります。
もっとも、判例及び実務においては、遺産分割時には存在しない財産であっても、共同相続人の全員がこれを遺産分割の対象に含める旨の合意がある場合には、例外的にこれを遺産分割の対象とする取り扱いがなされています(明文の規定はありませんでした。)。
ところが、使い込みをした当人の同意も必要ですので、かかる合意が成立せず、当該処分をした者の最終的な取得額が、他の共同相続人に比べて大きくなるという不公平が生じるケースが散見されていました。
そして、使い込みをした者が頑なに否認する場合など、この点につきいくら話し合いを重ねたところで調停期日が空転するだけですので、大体3回くらいはこの点についても協議をしますが、その後は民事訴訟でやってくださいということになります。 すなわち、使い込みがあったと主張する共同相続人が、最終的には、別途民事訴訟を提起して、不当利得あるいは不法行為に基づく損害賠償請求を主張することになります(立証の難易度は同程度ですが、時効に違いがあります。)。
このような事情を踏まえ、改正相続法では、遺産分割前に遺産に属する特定の財産を共同相続人の一人が処分した場合に、処分をしなかった場合と比べて利得をすることがないようにするため、遺産分割においてこれを調整することを容易にする規律を設けることとなりました。
すなわち、同条1項では、共同相続人全員の同意によって、遺産分割前に処分された財産についても遺産分割の対象財産にすることを認めると規定し、従前の判例及び実務の取り扱いを明文化しました。
そして、同条2項では、共同相続人の一人が遺産分割前に当該処分をした場合には、当該処分をした共同相続人の同意を得ることを要しないとし、当該処分を行ったのが共同相続人の一人である場合には、遺産分割時に当該処分をした財産を遺産に含めることについて他の共同相続人の同意さえあれば、これを遺産分割の対象として含めることができる旨を規定しました。
同規定は、令和元年7月1日から既に施行されていますが、同日前に開始した相続については、なお従前の例によることとされています。
(弁護士 中川内 峰幸)
遺産の一部分割(改正相続法)
改正相続法の解説、第5回目は、「遺産の一部分割」についてです。
まずは条文を確認しましょう。
(民法907条)
1 共同相続人は、次条の規定により被相続人が遺言で禁じた場合を除き、いつでも、その協議で、遺産の全部又は一部の分割をすることができる。
2 遺産の分割について、共同相続人間に協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、各共同相続人は、その全部又は一部の分割を家庭裁判所に請求することができる。ただし、遺産の一部を分割することにより他の共同相続人の利益を害するおそれがある場合におけるその一部の分割については、この限りでない。
3 前項本文の場合において特別の事由があるときは、家庭裁判所は、期間を定めて、遺産の全部又は一部について、その分割を禁ずることができる。
従来の民法907条の規定につき、「遺産の全部又は一部」という文言が追加された形となります。
遺産分割を早期に解決するためには、争いのない部分について先行して分割を行うことが効果的なケースもあり、従来、実務においても一部分割が行われていました。しかし、法文上は、一部分割が許容されているのか明確ではなかったため、改正相続法では、いかなる場合に一部分割が可能であるかにつき、上記のとおり明文の規定を設けました。
今後、一部分割を求める者は、調停の申立てに際して、分割を求める遺産の範囲を特定する必要があります。
また、「他の共同相続人の利益を害するおそれがある場合」には一部分割が認められません(2項但書)。ある特定の遺産のみを先に分割してしまうことによって、残された遺産の分割の際に適正な解決が期待できないことが想定される場合には、一部分割を行うことはできません。
たとえば、とにかく現金が必要な相続人が、「現金のみを先に分けてしまおう」と考え一部分割の申立てをしたとしても、残された不動産等の分割が困難であり、高額の代償金支払の発生が想定されるところ、先に全て現金を分割して各相続人がこれを費消してしまうと、後日、代償金の支払が不可能になるような場合、一部分割は制限されるでしょう。
ですので、裁判所は、代償金の額及びその支払の履行可能性、換価等の分割方法、特別受益の有無などにつき後見的に検討し、他の共同相続人が適正な分割を受けることができない場合には、この一部分割を許可しない運用を行います。このような場合には、裁判所は、まずは釈明権を行使して、申立人に対して、申立ての趣旨の拡張につき確認をし、それでも申立人が拡張に応じないのであれば、最終的には却下となるのではないかと考えます。
一部分割に関する規定は、令和元年7月1日より既に施行されています。同日前に開始した相続については、なお従前の例によることとされ、改正相続法の適用はありません。
(弁護士 中川内 峰幸)
特別の寄与
改正相続法解説の第4回目は、「特別の寄与」に関してです。
まずは条文を確認しましょう。
(民法1050条)
1 被相続人に対して無償で療養看護その他の労務の提供をしたことにより被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与をした被相続人の親族(相続人、相続の放棄をした者及び第891条の規定に該当し又は廃除によってその相続権を失った者を除く。以下この条において「特別寄与者」という。)は、相続の開始後、相続人に対し、特別寄与者の寄与に応じた額の金銭(以下この条において「特別寄与料」という。)の支払を請求することができる。
2 前項の規定による特別寄与料の支払について、当事者間に協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、特別寄与者は、家庭裁判所に対して協議に代わる処分を請求することができる。ただし、特別寄与者が相続の開始及び相続人を知った時から6箇月を経過したとき、又は相続開始の時から1年を経過したときは、この限りではない。
3 前項本文の場合には、家庭裁判所は、寄与の時期、方法及び程度、相続財産の額その他一切の事情を考慮して、特別寄与料の額を定める。
4 特別寄与料の額は、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額から遺贈の価額を控除した残額を超えることができない。
5 相続人が数人ある場合には、各相続人は、特別寄与料の額に第900条から第902条までの規定により算定した当該相続人の相続分を乗じた額を負担する。
「なんだ寄与分だったら改正前相続法でも規定があったではないか」と思われるかもしれません。この度の改正相続法で新設されたのは、単なる「寄与分」ではなく、「特別の寄与」です。何が違うのかというと、寄与分は相続人にのみ認められていたところ、この「特別の寄与」は、相続人以外の者に認められるという点です。
例を挙げましょう。婚姻して夫と夫の父親(義父)と同居するに至った女性が、義父の療養看護に努め、同人の財産の維持又は増加に寄与したとします。その後義父が死亡し、相続が発生しました。しかしこの場合、この女性は義父の相続人ではありませんので、遺産分割手続において、寄与分を主張することができないといった問題がありました。
この度新設された特別の寄与は、被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与をした者がいる場合には、その者にも相続財産の分配に与ることを認めることが実質的公平の理念に適うとの考えを制度趣旨とします。上記の例のようなケースにおいて、同居の息子の妻が、「特別の寄与者」として、遺産の中から幾らかの金銭を受領することが可能になります。
さて、具体的な手続きですが、寄与分の場合と異なり、遺産分割手続から独立してなされます。したがって、遺産分割調停が家裁に係属していない場合であっても、個別に申立てをすることが可能です(遺産分割調停が既に申し立てられているか、あるいは後日申し立てられた場合には、裁判所が移送・併合の要否を判断するものと思われます。)。また、特別の寄与者は、一部の相続人に請求しないこともできます。先の例でいえば、自らの夫に対して請求するメリットがないため、夫は相手方としないことになるでしょう。
本規定は、令和元年7月1日より既に施行されております。なお、施行日前に開始した相続については、改正前の法律が適用されます。
(弁護士 中川内 峰幸)
持戻し免除の意思表示の推定(改正相続法)
改正相続法解説の第三回目、今回は持戻し免除の意思表示の推定についてです。
条文を見ましょう。
(民法903条)1~3項(略)
4 婚姻期間が20年以上の夫婦の一方である被相続人が、他の一方に対し、その居住の用に供する建物又はその敷地について遺贈又は贈与をしたときは、当該被相続人は、その遺贈又は贈与について第1項の規定を適用しない旨の意思を表示したものと推定する。
省略しました第1項は、特別受益の持戻しについての規定です。その規定を、この第4条では、一定の要件を満たした場合には「適用しない旨の意思を表示したものと推定する」とするものです。
前提として、まずは特別受益の持戻しにつき簡潔にご説明しましょう。
共同相続人の中に、被相続人から遺贈や生前贈与(以下、併せて「贈与等」といいます。)を受けた者がいるときには、各相続人間の公平を図るため、その贈与等の額を相続財産に加算して遺産分割をすることになりますが、これら贈与等のことを「特別受益」といいます。そして、贈与等の額を相続財産の中に加算することを、「特別受益の持戻し」といいます。ただし、被相続人が贈与等を持ち戻す必要がないという意思表示をしていたと認められる場合には、「持戻しの免除の意思表示」がなされたとして、贈与等の額を相続財産に加算する必要がなくなります。
さて、夫婦の一方が他方に対して居住用不動産を贈与等するということはよく見られることですが、この場合原則として、特別受益として取り扱われますので、他方配偶者は、かかる不動産の価額を既に取得したものとして具体的相続分が計算されることになり、その他の取得できる額が減少することとなります。
改正相続法は、この点、婚姻期間が20年以上である夫婦の一方が他の一方に対して居住用不動産の贈与等をした場合においては、被相続人の意識としては、これによって、遺産分割における配偶者の取り分につき、居住用不動産の価額分を減少させる意図は有していない場合が多いこと等を考慮して、持戻し免除の意思表示があったとの法律上の推定規定を設け、配偶者の相続における取得額を事実上増額させることを可能としました。
ただし、これはあくまでも「推定規定」であるため、被相続人が異なる意思を表示している場合には、本規定は適用されません。かかる推定を争う側は、積極的に当該推定を覆す根拠を主張する必要があるでしょう。
なお、同規定は、令和元年7月1日から既に施行されていますが、施行日前にされた贈与等については適用されませんのでご注意ください。また、「贈与等をした時点」で婚姻期間が20年以上であることも要件とされておりますので、この点も注意が必要です。例えば、婚姻後19年目に贈与がなされ、婚姻後25年が経過した時点で相続が発生した場合には、本規定の適用はありません。とはいえ、婚姻後19年も経った時点で贈与等がなされていれば、それまでの長年の貢献に報いると共に、老後の生活を保障する趣旨で行われたものであり、その価額を控除して遺産分割における配偶者の取得額を減少させる意思は有していなかったと考えられることが多いでしょう。あくまでも、この規定が適用されないというだけの話です。
従来の実務においては、黙示の持戻し免除の意思表示があった(なかった)という主張が展開され争点となることも多かったのですが、この度の改正により、同条1項の取り扱いの原則と例外が逆転されたことになります。居住用不動産の贈与等を受けた配偶者にとっては有利な規定です。
(弁護士 中川内 峰幸)
配偶者居住権(改正相続法)
改正相続法解説の第2回目は、配偶者居住権です。
まずは条文を見てみましょう。
(民法第1028条)
被相続人の配偶者は、被相続人の財産に属した建物に相続開始の時に居住していた場合において、次の各号のいずれかに該当するときは、その居住していた建物(居住建物)の全部について無償で使用及び収益をする権利(配偶者居住権)を取得する。ただし、被相続人が相続開始の時に居住建物を配偶者以外の者と共有していた場合にあっては、この限りではない。
一 遺産の分割によって配偶者居住権を取得するものとされたとき。
二 配偶者居住権が遺贈の目的とされたとき。
2、3項(略)
改正前相続法においては、配偶者が従前住み続けていた建物に継続して住み続けたいという場合には、配偶者がその建物の所有権を取得するか、その建物の所有権を取得した他の相続人との間で賃貸借契約を締結するなどといった方法を採っていました。しかし、前者については、建物の評価額が高い場合、配偶者が他の遺産を取得することができなくなり(あるいは配偶者が価額弁償しなければならなくなり、債務を負担するケースもありえます。)配偶者のその後の生活がままならなくなることが考えられます。また、後者に関しては、そもそも建物取得者との間で賃貸借契約が締結できないという場合もあります。
そのような事情を背景として、改正相続法は、配偶者に居住建物の使用収益権のみを認め、処分権限のない権利を「配偶者居住権」として新たに規定しました。これにより、配偶者は、所有権を取得するよりも低額である居住権を確保することにより(配偶者居住権の価額評価の方法については後述します。)、引き続き当該建物に居住できるのみならず、他の財産に関しても一定程度確保することができ、その後の生活費を確保することが容易となりました。配偶者居住権は登記され、排他的な無償使用権限が認められます。なお、あくまでも「配偶者」居住権ですので、法律上被相続人と婚姻していた者に限られ、内縁の配偶者には認められませんので注意が必要です。
それでは、配偶者居住権の財産評価はどのように行うのでしょうか。本規定は令和2年4月1日からの施行となっておりますところ、新型コロナに係る緊急事態宣言が発出された影響で裁判所も期日を取消したりしていますので、本ブログ執筆時(令和2年4月14日)では、当事務所においては、未だ実際に評価がなされた事例はありません。そこで、ここでは、法務省が作成した資料に基づき、簡易な評価方法をご紹介します。計算式としては、次のとおりとなります。
配偶者居住権の価額 = 建物敷地の現在価額 - 配偶者居住権付所有権(①負担付建物所有権+②負担付土地所有権等)の価額
上記①負担付建物所有権及び②負担付土地所有権の価額の算定も必要となり、なかなかに複雑ですね。
配偶者居住権の価額について、より詳細にお聞きになりたい方は、当事務所までお気軽にお問い合わせください。
(弁護士 中川内 峰幸)
遺産分割前における預貯金の払戻制度(改正相続法)
相続法が大きく改正されました。何回かに分けて、改正相続法の特徴をご紹介します。第1回目は、遺産分割前における預貯金の払戻制度です。
従来は、預貯金債権は、相続開始と同時に各共同相続人の相続分に応じて当然に分割されるものとされていましたので、各共同相続人は、自己に帰属した債権を単独で行使することができると理解されていました。
ところが、平成28年12月19日の最高裁大法廷決定が、従来の判例を変更して、預貯金債権が遺産分割の対象に含まれるとの判断を示したものですから、同決定後は、遺産分割が終了するまでの間は、共同相続人全員の同意を得なければ払戻しができないということになりました。なお、同決定は、預貯金債権が現金類似の性質を有することを考慮したようです。
しかし、事案によっては、預貯金を解約して、早急に相続債務の弁済をしなければならない場合もあるでしょう。あるいは、被相続人と同居していて、同人から扶養を受けていた場合など、共同相続人の当面の生活費を支出する必要がある場合も考えられます。このように、遺産分割前に預貯金を払い戻さなければ非常に困る場合が想定されるところです。
そこで、改正相続法は、上記の資金需要に対応することを可能とするため、裁判所の判断を経ることなく預貯金債権を一定の範囲で行使することのできる制度を設けるに至りました。この「一定の範囲」というのは、上記最高裁決定の趣旨を没却しない限度にとどめる必要があるとの考えから制限がなされるものです。具体的には、各預貯金債権の額の3分の1、かつ、一金融機関につき150万円、という制限があります。
条文を見てみましょう。
(民法909条の2)
各共同相続人は、遺産に属する預貯金債権のうち相続開始の時の債権額の3分の1に第900条及び第901条の規定により算定した当該共同相続人の相続分を乗じた額(標準的な当面の必要生計費、平均的な葬式の費用の額その他の事情を勘案して預貯金債権の債務者ごとに法務省令で定める額を限度とする。)については、単独でその権利を行使することができる。この場合においては、当該権利の行使をした預貯金債権については、当該共同相続人が遺産の一部の分割によりこれを取得したものとみなす。
これを受けて、
(民法909条の2に規定する法務省令で定める額を定める省令)
民法909条の2に規定する法務省令で定める額は、150万円とする。
という省令が制定されました。
つまり、計算式としては、
共同相続人が単独で払戻しをすることができる額 = 相続開始時の預貯金債権の額 × 1/3 × 当該払戻しを求める共同相続人の法定相続分
(ただし、同一の金融機関に対する権利行使は、150万円が上限)
ということになります。
この規定は、令和元年7月1日から既に施行されています。
ご質問がある場合は、シャローム綜合法律事務所までお気軽にお問い合わせください。
(弁護士 中川内 峰幸)
不動産の評価方法
不動産は一般的に価値の高い財産であり、また評価の方法によっては金額に大きな差異が生じるため、相続人間の意見が先鋭化しやすいところです。どのようにして不動産の金額を評価するのでしょうか。
実務において評価の際に用いられることが多いのは、以下の三つです。
①公示価格・・・実勢価格に最も近い金額となりますが、公示価格が算出される標準地の選定は限定的です。公示価格は国土交通省の「土地総合情報システム」というサイトで調べることができます。
②路線価(相続税評価額)・・・路線価は、主に相続税の評価の際に用いられるもので、毎年その年の1月1日時点の価額が算定され、国税庁が公表しています。公示価格の80%程度の評価になっているといわれています。都市部においてはほとんどの地域を網羅していますので使い勝手がよいでしょう(逆に、地方ではないことが多いです。)。
③固定資産税評価額・・・路線価がない地域等ではこれを基準とすることもあります。当該不動産の個別的要因が反映されています。公示価格の70%程度の評価になっているといわれています。
さて、公示価格が実勢価格に最も近いと書きましたが、公示価格は基準値の価格であるため、当該不動産の個別的要因を考慮していない上、時的変動や取引条件での変動があるため、必ずしも「時価」とは一致しません。
実際には、当事者が各々、不動産仲介業者作成の査定書を取得・提出することが多く見られますが、同じ土地の評価であるにもかかわらず、数千万円の差異があることも珍しくありません。そのような場合、相手方の提出する評価書の弱点を突くことが重要となります。
ところで、評価の「時期」ですが、実務においては、遺産の評価は分割時(現実に分割する時点)を基準とされます。しかし、特別受益や寄与分が問題となる事案の場合は、相続開始時を基準として「みなし相続財産」を算出しますので、遺産分割時に存在する相続財産については、分割時のほかに相続開始時の評価も必要となります。これを二時点評価といいます。
ちなみに、以上は不動産の中でも土地に関するお話しでしたが、建物の場合は、固定資産税評価額が利用されることが多いでしょう。
どうしても相続人間で合意ができない場合には鑑定となりますが、鑑定費用もかかりますので(数十万から時には100万以上かかる場合もあります。)、調停期日内において落としどころを探索する作業が重ねられるところです。
不動産の評価についてお困りの方は、当事務所が提携している不動産仲介業者をご紹介することもできますので、お気軽にお問い合わせください。
(弁護士 中川内 峰幸)
遺産の調査方法
相続が発生したが、被相続人がどのような財産を持っていたか不明である場合、どのようにすればよいのでしょうか。
同居していた場合であれば、ある程度把握されている場合が多いでしょうが、別居していて長らく疎遠であった場合など、被相続人の財産関係につき全く見当もつかないという場合があります。遺産分割をするために調査が必要であることはもちろんですが、まさかの債務が存在する場合に備えて遺産の調査をすることが必要になります。
まず、被相続人の生活圏(お部屋の中など)を調査して、手掛かりがないかを調べます。預金通帳が発見されれば、その金融機関に他の口座も開設されている可能性がありますので照会をかけます。通常、すべての支店に口座が開設されていないかを調べてもらえます。
また、通帳の取引履歴を確認して、他の金融機関との間の出入金があれば、そこにも照会をかけます。さらに、各種引落の内容も確認します。例えば、生命保険料の引落しがなされていれば保険契約の存在が推測されますので照会をかけます。また、固定資産税の引落しがあれば不動産を所有していることになりますので、当該不動産の管轄市区町村を調べることができます。
預金通帳以外にも、郵便物を調べることにより財産が判明することもあります。証券会社からの通知、市役所からの固定資産税の通知、車のディーラーからのDM、これらも手掛かりとなります。
不動産に関しては、名寄帳(なよせちょう)を取り寄せることが重要です。名寄帳とは、固定資産税を課税するために市区町村が作成している固定資産課税台帳を所有者別にまとめたものです。課税されていない不動産は載っていませんが、被相続人の所有物件の大方は把握できるでしょう。
遺産の調査は、非常に地道な作業となります。一切手掛かりのない場合、手当たり次第に、被相続人の生活圏内の金融機関に照会をかけるということもあります。当事務所でも、30件程の金融機関に照会をかけた事件がありました。結構ヒットしたので幸いでしたが、空振りに終わることも多いでしょう。
一方で、債務に関しても調査が必要です。貸金業者等からの督促のハガキ等があれば分かりやすいのですが、被相続人が引越を繰り返していて住民票も移していなかった場合など、そのような督促が届いていないこともあります。被相続人が生前借り入れを行っていたかもしれないという怖い情報をお持ちであれば、念のため、CICやJICCに対して、法定相続人開示を行うことを検討すべきでしょう。多額の債務が判明した場合は、相続放棄を選択することになります。
時々、被相続人の遺産はすべてどこかのデータベースに一元化されていて、専門家であれば簡単に検索できると勘違いされている方がいらっしゃいます。マイナンバーが高度に普及すればゆくゆくはそのような世界になるのかもしれませんが、少なくとも現状ではそのような便利なものはありません。
上記のとおり、遺産調査はなかなかに根気のいる作業となります。弁護士に依頼されれば、これら調査もすべて代行できますので、必要とあれば当事務所までお問い合わせください。
(弁護士 中川内 峰幸)
相続人が行方不明の場合
遺産分割協議であれ、遺産分割調停であれ、まずは相続人を探し出して接触するところからスタートするわけですが、相続人がどこを探しても見つからないという場合があります。このような場合には、遺産分割はできないのでしょうか。
答えとしては、家庭裁判所に失踪宣告の申立てをして、行方不明の人物(「不在者」といいます。)が失踪者であるとの審判を受けることにより、その後の遺産分割を可能とすることができます。すなわち、失踪宣告とは、一定期間以上失踪していて、生死不明な場合、法律上死亡したものとみなす効果を生じさせる制度です。具体的には、当該不在者が原則7年間生死不明の場合に利用できます。
申立て自体はさほど難しくなく、必要書類を収集できれば、ご自身でも可能でしょう。印紙・郵券の他、官報掲載費用等も必要となります。
実際に申し立てた後の手続ですが、なかなかに時間がかかります。まず、調査官の調査が入りますので、家庭裁判所に行く必要があります。その際、不在者について申立人が知っていることを細かく質問されます。申立人がいつの時点まで不在者の所在を確認していたかについては、失踪宣告の審判書に「不在者は昭和●年●月●日以来7年以上生死が分からないものと認められる」との記載がなされるため、慎重に調査がなされます。その年毎の出来事や流行・風俗等がまとめられた年表を収めた書籍等を一緒に見たりして記憶を喚起する作業を行います(「(ファミコンの)スーパーマリオが発売されたときにはもうお父さんは家を出ていたということは、これが発売された昭和60年よりも前ということですね。」といった感じです。)。また、調査官は、申立人以外の関係者に対しても、電話や書面、あるいは面談によりヒアリングを行い調査します。
その後、調査が完了した後、公示抗告を行い、その3か月後に失踪宣告がなされます。申立てから宣告までの目安は、大体6か月程度でしょう。審判書の主文は「1 不在者を失踪者とする。 2 手続費用は申立人の負担とする。」と、いたってシンプルです。審判書を受け取った日の翌日から数えて14日が経過すると審判が確定しますので、あらかじめ確定証明書の交付申請を行っておきます。確定証明書が届きましたら、審判書謄本と併せて、確定した日から10日以内に、不在者の本籍地又は申立人の住所地を管轄する役所に届出を行わなければなりません(本籍地以外に届け出る場合は、不在者の戸籍謄本が必要となりますのでご注意を。)。
(弁護士 中川内 峰幸)
相続人の一部が調停に出席しない場合
相続を契機として親族間の人間関係が悪化する、あるいはもともと疎遠であり話し合いができない、という場合があります。そのような場合、遺産分割協議ができませんので、家庭裁判所に遺産分割調停を申し立てることになります。
では、その調停に相手方当事者(複数人の場合もあります。)が来ない場合、どうなるのでしょうか。
そもそも調停に出頭しないということは認められるのでしょうか。この点、家事事件手続法上、正当な理由なく出頭しない場合には5万円以下の過料に処するという罰則規定がありますが、実際にこの罰則が適用されることはまずありません。とすると、欠席しても問題がないようにも思えます。
たしかに問題はないのですが、相続人全員での話し合いができずに調停が不成立となると、自動的に審判手続へ移行することになります。原則として、審判を担当する裁判官は、調停を担当していた裁判官がそのまま担うことが多いですので、欠席当事者は、他の相続人が従前の調停期日において寄与分や特別受益等の主張を行っていた場合、これに対する反論の機会を自ら放棄していたわけですから、その分不利益を被るおそれがあります(もちろん、審判期日から参加して十分に主張を尽くせば挽回できるチャンスはありますが、反論の証拠等を収集する時間が限られるためやはり不利です。)。ですので、自ら積極的に主張する事項があるのでしたら、調停の最初から出席して各種準備をするのが得策です。
逆に考えれば、出席している当事者としては、欠席当事者がいるからといって、手続上自己が特段不利になることはないわけですから、当事者欠席に基づく手続遅延にやきもきすることはあるでしょうが、自らに有利な主張を一方的に提出する場として前向きに期日を利用することが望ましいでしょう。
なお、遠隔地であることを理由に出席が困難である場合には電話会議システムを利用することが可能です。また、調停に複数回出席はしたが以降出席する意思がなくなった場合で、これまでの話し合いで遺産分割案はまとまっており異論はないというときには、受諾書面の提出により出席しての合意に代えることもできます。あるいは、はなから遺産分割に興味がないという場合には、相続放棄や、相続分の放棄・譲渡といった方法もとることが可能です。
通常、初回の期日に赴いたところ当事者が欠席である場合、家庭裁判所書記官が電話をしたり、あるいは、家庭裁判所調査官が不出頭当事者に対して調停の趣旨を説明し、調停に出頭するように働きかける出頭勧告というものが行われます。この出頭勧告が常に奏功するわけではありませんが、調査官が不出頭当事者に接触することができれば、調停に応じることが多いほか、合意の斡旋により調停に代わる審判の活用が検討され、早期解決が期待されます。なお、この調停に代わる審判とは、調停が成立しない場合において、裁判所が相当と認めるときに、文字通り調停の成立に代わるものとして審判を出す制度です。例えば、相続人の大半は遺産分割の成立に同意しているのにも関わらず、1人のみが感情的に反対し、その反対理由に何ら説得力がない場合や、わずかな意見の食い違いによってあと一歩で調停が成立しない場合などに利用されます。告知後2週間以内に異議が出されなければ確定します(異議が出されれば審判に移行します。)。
このように、結局のところ、相続人の一部が調停に出席しない場合でも、最終的には遺産分割を完了させることが可能です。とはいえ、話し合いに非協力的な相続人がいる場合には、遺産分割の手続は長期間に渡ることが少なくありませんので、省力化を期待されるのであれば、弁護士に依頼されることをお勧めします。
(弁護士 中川内 峰幸)
被相続人が債務を負っていた場合の遺産分割
金銭債務は、相続により当然に各相続人に法定相続分で承継されるため、遺産分割の対象とはなりません。遺産分割は、プラスの財産についてのみ分割を行うものです。したがって、100万円の借金を負って被相続人が亡くなった場合、相続人が子二人であれば、それぞれが50万円ずつの借金を相続することになります。
なお、場合によっては、相続人の一人が単独で遺産を取得する代わりに、被相続人が負っていた債務も全て負担する内容の遺産分割協議が成立することもあります。しかし、相続人間でそのような合意が成立したとしても、債権者(金融機関等)が承諾しない限り、他の相続人が債務の負担を免れることはできません(債権者から請求が来た場合、遺産分割の内容がこうだと主張しても対抗できません。)。ですので、そのような遺産分割協議を成立させる場合には、債権者の承諾が得られるか否かにつきあらかじめ確認しておくことが必要でしょう。
同様に、保証関係についても考慮を要します。保証人の責任が相続されるのか否かについては、保証の種類によって異なってきます。特定債務の保証の場合には、これが相続されることに異論はありません。他方、継続的保証の場合には、それが包括根保証であるのか、身元保証であるのか、あるいは賃貸借契約における保証であるのか等により結論を異にします。詳しくは弁護士にお問い合わせください。
さて、以上は債務が存在することを承知の上で遺産を相続する場合ですが、マイナスの財産がプラスの財産よりも過大な場合は、相続放棄の手続を検討することになります。相続放棄にはタイムリミット(3か月の熟慮期間)がありますのでお気を付けください。マイナスの財産があることを知らない間に3か月が経過してしまったという場合は、弁護士にお問い合わせください。
(弁護士 中川内 峰幸)