表明保証違反と損害賠償請求・補償請求

表明保証違反は損害賠償ではなく“補償請求”です

多くの人が「表明保証違反 損害賠償」と検索する理由

M&A後にトラブルが発覚すると、買主はまず「損害賠償できるのか?」と考えます。

実際に、当事務所のHPを検索される方のキーワードも「表明保証違反 損害賠償」や「表明保証 損害賠償」というものが多いです。

しかし、M&Aの契約実務では、表明保証違反=損害賠償ではなく“補償請求(Indemnification)”で処理するのが一般的です。

この違いを理解していないと、「請求できると思っていたのに、実はできなかった」という事態にもつながります。

 

表明保証違反とは何か

売主が契約書で

  • 「財務状況は真実かつ正確である」
  • 「簿外債務は存在しない」
  • 「重要な契約は有効に存続している」

などと表明・保証した内容が事実と異なっていた場合、表明保証違反となります。

問題は、これに対して「どの法的構成で請求するのか」という点です。

表明保証違反は売主・買主双方に発生し得ますが、主に買主が売主に対して請求するケースが多いですので、ここでは売主側に表明保証違反が発生したという前提で解説します。

 

なぜ損害賠償ではなく“補償請求”なのか

1. 損害賠償には「売主の帰責性」が必要

民法上の損害賠償は、原則として

  • 故意
  • 過失
  • 債務不履行の責任

といった売主側の帰責性が必要になります。

しかし、表明保証違反の多くは、

  • 売主に悪意はないが、結果として事実と違っていた
  • 売主自身も完全には把握していなかった

といったケースです。

このような場合、民法上の損害賠償責任を問うのはハードルが高いのが実務感覚です。

 

2. 損害額・因果関係の立証が重すぎる

損害賠償では、買主側が

  • 損害の発生
  • 損害額
  • 表明保証違反との因果関係

を立証しなければなりません。

M&Aでは、

  • 企業価値の減少
  • 将来利益の毀損
  • シナジーの喪失

など、数値化や因果関係の説明が極めて難しい損害が問題になります。

そのため、「損害賠償」という枠組みだけで救済を図るのは、実務上かなり厳しいのが現実です。

 

3. 契約で自由に設計しづらい

民法上の損害賠償責任は、法律の枠組みに強く縛られます。

そのため、

  • 請求期間
  • 上限額
  • 免責額
  • 対象となる損害の範囲

などを、当事者の合意で柔軟に設計するには限界があります。

 

補償請求(Indemnification)なら実務に合う

そこでM&A実務では、表明保証違反に対する救済は「補償請求(Indemnification)」で処理するという構造が一般的です。

補償条項は、契約で自由に設計できる“契約責任”として位置づけられます。

補償のメリット

  • 売主の帰責性(故意・過失)を要件としない設計が可能
  • 因果関係の書きぶりを契約で調整できる
  • 損害の範囲(費用・弁護士費用・将来負担など)を広く定義できる
  • 期間・上限・免責額(キャップ・バスケット等)を自由に設計できる
  • 「知らなかった」では逃げられない(No knowledge型の条文設計が可能)

このように、表明保証違反=補償請求という構造が、M&A実務にフィットするのです。

 

損害賠償や不法行為を封じる条項があるため、なおさら補償請求が中心になる

さらに実務上重要なのは、M&A契約の中に

  • 「本契約に定める補償以外の請求(債務不履行、不法行為等)はできない」
  • 「買主は、民法その他の法律に基づく損害賠償請求権を行使しない」
  • 「本契約に定める補償が唯一の救済手段とする(Exclusive Remedy)」

といった、損害賠償・不法行為請求を制限・排除する条項が置かれていることが多い点です。

このような条項が入っている場合、買主は

  • 債務不履行に基づく損害賠償請求
  • 不法行為に基づく損害賠償請求

といった一般的な民法上の請求を封じられ、契約上の補償請求こそが唯一の現実的な救済手段となります。

つまり、

  1. 損害賠償はそもそも要件・立証が重い
  2. そのうえ契約で損害賠償・不法行為請求を封じていることも多い
  3. だからこそ、補償条項の設計が決定的に重要になる

という三層構造になっているのが、M&A実務の実態です。

 

契約で注意すべきポイント(買主側)

1. 表明保証の範囲を具体的かつ広く設定する

「適法に運営されている」などの抽象的表現だけでなく、簿外債務、税務リスク、労務リスク、許認可、反社関係など、リスクの所在を具体的に条文化することが重要です。

2. 売主の認識にかかわらず責任を負わせる(サンドバッギング条項)

サンドバッギング条項とは、買主がデューデリジェンス等で表明保証と異なる事実を知っていたとしても、売主の補償責任が免れないとする条項です。
これにより、売主が「買主は知っていたはずだから責任を負わない」と主張する逃げ道を塞ぐことができます。

3. クロージング時点での再表明

契約締結時とクロージング時の間に状況が変わることもあります。

締結時点とクロージング時点の両方で表明保証を再表明させることで、「契約後に悪化したリスク」も補足できる設計が可能です。

4. ディスクロージャースケジュールの精度

売主が開示した事項は、補償の対象外(免責)とされるのが一般的です。

そのため、

  • どこまで開示されているのか
  • 曖昧な書き方になっていないか

といった点を丁寧に確認しないと、「開示されていたから補償対象外です」と主張されるリスクがあります。

 

実際に補償請求する流れ

表明保証違反が疑われる場合、一般的な流れは次のとおりです。

  1. 契約書の表明保証条項・補償条項を確認する
  2. ディスクロージャースケジュールと照合する
  3. 売主に対して通知(Notice)を行う
  4. 損害額・補償対象となる範囲を整理する
  5. 交渉による解決を試みる(必要に応じて法的措置も検討)

補償請求には、通知期限や請求期間(サバイバル期間)が定められていることが多いため、「気づいたけれど放置していた」という対応は危険です。

 

まとめ:表明保証違反は“補償請求”で守る

  • 表明保証違反でお困りの皆様は「表明保証違反 損害賠償」と考えがち
  • しかし実務では、損害賠償ではなく“補償請求”が中心
  • しかも、契約で損害賠償・不法行為請求を封じる条項が置かれることも多い
  • したがって、補償条項の設計こそが、買主を守る最後の砦となる

表明保証違反や補償請求の可能性があると感じた場合は、契約書の条文構造を前提に、どのルートで、どこまで請求できるのかを早期に検討することが重要です。